東京高等裁判所 昭和30年(ラ)237号 決定
控告人(物件所有者) 鈴木治郎
相手方(債権者) 三菱レイヨン株式会社
〔抄 録〕
裁判所が競売の目的たる不動産につき最低競売価額を定めるため、鑑定人に不動産の評価を命じた場合、その評価鑑定を妥当と認めて採用するか否かは、当該諸般の事情に照らし、裁判所が自由に決しうるところである。本件において所論のような経緯の下に別異の鑑定人に命じて両度の鑑定がなされたところ、間借人等が退去して賃貸借関係がない場合の第二次の鑑定評価額が却つてこれある場合における第一次の鑑定評価額を下廻る結果となつたからとて、裁判所は必ずしも更に第三次の鑑定を命じなければならないものではない。原裁判所が、右事情あるにかかわらず第二次の鑑定評価額を以て適切妥当であると認めたときは、直ちにこれを採つて最低競売価額を定めるに妨げあることなく、かかる原審の措置はこれを違法とすべきではないこと勿論である。
競売期日に相当の競買申込がないときは、裁判所は民事訴訟法第六百四十九条第一項の規定を害しない限り、その意見を以て先に定めた最低競売価額を低減した上、新期日を定めて競売をなすべきことは、競売法第三十一条によつて準用される民事訴訟法第六百七十条の規定するところである。しかしてその低減すべき程度については右法文上「相当ニ」とあつて、裁判所が競売手続の進捗と各関係人の利害を衡量の上、自由なる裁量によりその適当と認める限度にまで低減することを許しているのである。抗告人の主張するように、その場合常に土地については一割、家屋については二割を引下げて最低競売価額を定むべしとする慣習法若しくは裁判所を拘束する取扱慣行が一般に確立しているものとは為し難い。それ故かかる趣旨の法たる慣習若しくは取扱慣行の存することを前提とする抗告論旨は、もとより採用の限りでない。原裁判所は昭和三十年二月十一日の競売期日において、当初の最低競売価額たる金八十三万八千円に達する適法な競買申込がなかつたため、その価額を本件土地家屋を一括して二割方引下げて金六十七万円とし新期日を定めて競売手続を続行したのであるが、その割合による低減によつて事実上甚しき不当な結果を生じたものとは見られないのであるから、実質的に見ても原審の右手続を目して違法とすることはできない。